FORMANT BROTHERS

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フォルマント兄弟の長くまっすぐな道

これまでのフォルマント兄弟の活動について箇条書きで整理したので、こちらにも掲載します。なお、『フレディの墓/インターナショナル(2009)』や『フォルマント兄弟の“お化け屋敷”(2010)』など、メディア・テクノロジーの亡霊性をテーマにした一連の活動については記載されていません。


フォルマント兄弟は、独自に開発した音声合成エンジンをMIDI鍵盤でリアルタイムに発声させるための「兄弟式日本語鍵盤音素変換標準規格」を考案し、『兄弟deピザ注文(2003)』において世界に先駆け実演発表。

http://formantbros.jp/wp/works/order-pizza/

 

その後、鍵盤奏者ひとりが、左手で日本語の音節を和音指定し、右手で微分音程のメロディ(抑揚)や強弱をコントロールできるよう規格改訂を重ね『NEO都々逸(2009)』を発表。

http://formantbros.jp/wp/works/neo-do-do-i-tsu-6/

 

そうこうしているうちに音声インターフェースとしてアコーディオンの存在が気になり始め、ローランド社のVアコーディオンを使っての研究に着手。2011年より科研費研究として本格開始。

http://www.iamas.ac.jp/kaken/formant/

 

独自に開発した音声合成エンジンをMIDIアコーディオンでリアルタイムに発声させるための「兄弟式日本語ボタン音素変換標準規格」を考案・発表。ボタンがたくさんあるのでとりあえず日本語カナを当てはめてみた。

http://formantbros.jp/wp/wp-content/uploads/2020/06/BBPTSJ_v2.pdf

 

この規格で実際に作曲したのが『夢のワルツ(2012)』。同時に電力すべてのバッテリー/電池化を果たし完全モバイルの「流し」スタイルを確立。「人工音声で酒場を流して歩こう!」という兄弟結成時の夢が形に。

http://formantbros.jp/wp/works/yume-no-waltz/

 

フォルマント兄弟の道6:しかし「ボタンがたくさんあるのでとりあえず日本語カナを当てはめてみた」はスッキリしない。演奏身体にとっての合理性と必然性の両面で。カナという「音節文字のシステム」にとらわれていたことに気づき、再び「音素」ベースに発想を切り替えるため悶々と思考実験の日々

 

そして2013年ついに「兄弟式国際ボタン音素変換標準規格 (BBPTSI)」にたどりつく。使うボタンはたった12個だけ。それしか使わない。日本語じゃなくて国際とあるように、これは原理的にマルチリンガルへの対応可能性を秘めている。いまのところ日本語で練習しているけど。

 

この新規格のおかげで、蛇腹を動かせばハァハァと呼吸もするし、力の強弱で囁きから叫び声まで声質を変え、ボタンに触れれば微かに無声子音を発し、曖昧な中間母音のあえぎ声も発声するようになった。

 

しかしボタンの数が少なくなった分、奏者の身体訓練への依存度が大きくなった。まるで赤ん坊がはじめての言葉を覚えるように、練習を重ね、発声を身体化して行く。その過程で想像もしなかった体験が生まれる。

 

いつしかMIDIアコーディオンは楽器やデバイスであることを止め、何やら器官的、臓器的な生々しい肉塊として膝の上で自律的な存在を主張し始めるのだ。

 

演奏者の方もある種の倒錯に巻き込まれる。機械をコントロールしているのではなく、まるで幼児が初めて発声を覚えるのを介助しているような体験。あるいは虚構の声の主に肉体を与えているような錯覚、わたしの身体を使って別の主体が唄っているような倒錯が起る。

 

名付け難い異物が出現したことは確かである。5月の記号学会でこの規格をはじめて発表した時に、吉岡洋さんは「ロボットでもサイボーグでもないし、ゾンビでもない。ホムンクルスのようなもの」と評した。

http://formantbros.jp/wp/news/20130520-jass2013-finished/

 

ということで、12/8「電力芸術演奏会2013」@名古屋電気文化会館では、この「兄弟式国際ボタン音素変換標準規格」によるはじめての『夢のワルツ』再演となる。旧規格に基づくYoutubeの演奏とどう違うのか、ぜひ実際にご確認ください〜。