FORMANT BROTHERS

WORKS

ぽっくり きのくつ

この作品は、神奈川県立近代美術館葉山館「すべての僕が沸騰する──村山知義の宇宙」展の関連企画「新・劇場の三科 1925→2012」のために作曲された。

美術、建築、文学、演劇などマルチな領域で活躍し、大正・昭和期の日本前衛芸術をリードした村山知義は、生涯「Tom」の名で挿絵画家としても活躍し、特に詩人・児童文学者であり妻でもある籌子の児童文学作品に数多くの挿絵を残した。昭和二年まで刊行されていた子供向け雑誌「子供之友」に掲載された数多くの、この夫婦のコラボレーションの中から、フォルマント兄弟は「ぽっくり きのくつ」という詩を選び、その朗読を作曲した。

 

今回の挑戦において最も特筆すべき特徴は、演奏のためのインターフェイスとしてMIDIアコーディオンを用いたことだ。 岡野勇仁氏の演奏により「抑揚」と呼ぶ発話の「旋律」を右手の鍵盤で、また、50音と言われる日本語の「音素」をアコーディオンの左手のボタンを使って「演奏」することでリアルタイムに人工音声の声で詩を朗読する人類初の試みであった。結果として、蛇腹(ベロー)をはじめとしたアコーディオンならではの楽器特性を十分に活かし、これまでのピアノ式鍵盤では決して得られなかった新たな人工音声の表現力を獲得できた。演奏は、はじめにアコーディオン本来の音色だけで始まり、母から子への詩の読み聞かせ、そして金切り声による絶叫へと展開した。

 

また、この作品で兄弟は、アコーディオンの左手のボタンと日本語音素との対応関係を定めた「兄弟式日本語ボタン音素変換標準規格」を、世界に先駆けて制定した。

 

 

「ぽっくりきのくつ」

作詞:村山筹子

作曲:フォルマント兄弟

演奏:岡野勇仁(MIDIアコーディオン)

2012.03.03  神奈川県立近代美術館葉山館「新・劇場の三科 1925→2012」(世界初演)

 

村山筹子の詩「ぽっくり きのくつ」(青空文庫)

「新・劇場の三科 1925→2012」フライヤー